史上最大の危機

 がいた。
 それも運転中の車内に。耳元をあの例の嫌な音とともにかすめて行ったのだよ。私はもう半狂乱状態。運転中では叩くこともかわすこともできない。仮に道路脇に停車したところで、自由に身体を動かせない車内でどうやって見つけ、退治するというのだ。後部座席にでも行かれたらそれで終わりである。仕方なく冷房を最強にし、顔や手などの露出しているところに冷気を激しく吹きつける。風と温度とで近づけないようにするという精一杯の抵抗である。
 すっげぇ、寒かったよ。
 家に帰ったときにはもう暗くなっていたので車内の蚊を見つけることは不可能だし、そんな気力もない。すごすごと家の中へと撤退。ああ、明日の通勤中も、いや退社後も明日もそのまた次の日も、同じような恐怖と絶望感とに襲われながらも安全運転をしなくてはならないのね…。


 もしも近日中に私が交通事故でも起こしたなら、それは間違いなく蚊のせいです。絶対です。