N-1グランプリお試し体験 その2

えー、昨日の日記に小説をUPして直ぐに、
もう一本ネタが浮かびましたので、
また書き上げました。


日記上の日付は一日差ですが、
実際の執筆開始は、前の作品を書き上げてからほんの15分くらい後です。
(前に書いた作品はこちら→題名は「「環境不適合報告書」」


ルール:お題を見たときから40分間で小説を書き上げる。

お題 : 電池  結婚  公園


2作目なので、お題を見てから40分というのはありえませんが、
執筆そのものの時間は30分強です。

題名は「婚約破棄をするには相応の理由がある」

私の愚作に興味のある人は


婚約破棄をするには相応の理由がある


「でさ、聞いてよ。ソイツったらさぁ。」
 ソイツというのは私の元カレだ。いや、元婚約者と言った方が適切かもしれない。目の前で微笑んでいるのは今カレ。いや、つい20分ほど前にプロポーズされちゃったので、婚約者と言った方が適切かな。その彼は優しい微笑みを浮かべながら、優雅な手つきでメインディッシュのステーキを切り分けている。私は喉を潤そうとして、赤ワインの入ったグラスを傾けた。
「元々変わり者ではあったのよね、何か、昔見ていたテレビの影響で懸賞にはまっててさぁ。まぁ、趣味なんて人それぞれだし、うまく当たれば実益も兼ねてるしね。だから別に気にしてなんてなかったのよ。ムードはないかもしれないけど。」
「ふんふん。それで。」
 私がプロポーズを受けたためだろうか。元カレの話なんてしているのに、余裕たっぷりの優しい表情で彼は私の話に耳を傾けてくれる。
「そんな人だから、プロポーズの言葉も特別ロマンチックじゃなかったけどね、付き合いもそこそこ長くって、まぁいいかなって感じで私もそのプロポーズを受けちゃったわけよ。でね。いざ結婚となると、やっぱり現実的な話を色々と進めるじゃない。それで、結婚式をどうしようかって話になったんだけど。」
 私は喋りながらだから、どうしても食べる速度が遅くなってしまうのだが、そんな私に気を遣わせないようにしているのか、彼の目の前の皿に残っている肉の量は、私とだいたい同じくらいだ。机の右端に置いている婚約指輪のケースにちらと視線を走らせ、つい頬が緩んでしまうのを実感しながら、肉を一切れ口に放り込み、かみ締める。少し冷めてしまったが、ソースと肉の味わいは絶品だ。
「ソイツは大手電機メーカーの開発室で働いてるんだけど、ソイツったら、どんな結婚式を挙げようって言ったと思う?」
「さぁ。その彼は、何て言ったんだい。」
「結婚式の機材を全部乾電池で動かしたいなんて言い出したのよ。何の冗談かと思ったんだけど、ソイツったらどうも大マジでね、懸賞で乾電池が1年分あたったんだって。それで、音響から照明からプロジェクターから、乾電池がもったいないから全部それで動かしたいっていうのよ。」
 私のグラスは、いつの間にか赤ワインで満たされていた。話すのに夢中になっていて、注がれたことに気付かなかったのだろう。ワインを傾け、口の中を潤す。
「だから私、式の途中で電池が切れたら逐一中断して取り替えるのかって言って、もらってた指輪を突き返してやったの。で、ソイツとはそれっきりってわけ。」
 何だか、思い出しただけでも怒りと恥ずかしさで顔が熱くなってきたようだ。それとも、ワインを飲みすぎたせいだろうか。
「それは大変な目にあったね。確かにもったいないという精神は貴いとは思うけれど。」
 彼はまた、優しく笑ってくれた。それだけでも何だか救われるような気持ちになる。
「あ、ごめんね、話を随分脱線させちゃったね。それで、私たちの結婚式の話なんだけど…。」
 あまりに元カレの時のことが記憶に強く残っているせいか、結婚式の話が出たら、ついこんな余計な話をしてしまった。ちょっと反省する。男って、元カレの話とかされるの嫌いだって言われているし。彼が気分を害した様子でないのが救いだが。
「その元カレくんもさ、もったいないという精神は大切だけど、やっぱり乾電池自体が環境によくないからね。」
 あれ、何だか少し話が噛みあってないような気がする。うまく言えないけど。
「僕の考えている結婚式はそんなものじゃないよ。もっと環境に優しく、太陽発電を利用して結婚式の機器を全て動かそうかと考えているんだ。」
 え。彼は一体何を言っているのだろう。
「敷地内に大きな公園があるホテルがあってね、その公園がまた、太陽発電をするのに日当たりが最高なんだ。広くて機材も設置しやすいし、搬入スペースも確保しやすく、周囲に木々や建物がほとんどないから、日差しが遮られる心配も無い。もちろん、ホテル自体も公園の日差しを遮らない。ねぇ、どう思う。」
 冗談でしょうと言いたかった。だが、目の前の彼の目は大真面目だった。私は空唾を飲み込み、ゆっくりと口を開く。
「あなた、式の日に雨が降ったら順延にするつもりなのっ。」
 端に置かれていた指輪ケースを彼の方へ押しやると、私は席を立ってその場を飛び出した。
 その彼とは、それっきり会っていない。