俺が諸悪の根源なのか!?

 先日行った船でのこと。
「これ、宅急便で送ってくれんかね。着払いで。伝票もつけとくから。」
「いいですよ。」
「ありがとう。それじゃ車に積んどくから。」
 こういう願いは苦にならない。着払いだから金のやり取りをしなくてもいいし、伝票をこちらで書かなくてもいいし、車に積んでおいてもらえれば運ぶ手間もさほどかからない。それで船員さんに喜んでもらえれば何よりだ。
 さて、それから書類手続きなどなども終わり、船の出港を見送った私は車に乗り込む。
(ナンカきむちクサイ…………)
 おかしい。私はキムチの密輸はしていないぞ。何のにおいだ…。船員さんに頼まれたことは仕事している間にすっかり忘れていたので、この原因不明のキムチ臭に私はたじろいだ。そして、トランクに積んである荷物に気づいた。
 これかーっ
 その日はもう夜遅かったので家に直帰した。荷物は途中のコンビニから発送しても良かったのだが、これでもうちの会社の陸運部に頼めばヤマト運輸から手数料がもらえる*1愛社精神旺盛な私は明日会社で出すことにして、寄り道せずに帰った。
 翌朝。逃げ場を失ったキムチ臭が一晩中発せられた車内はすごいにおいになっていた。もしもにおいが目に見えるものなら、この車内には赤い空気が充満し、前も見えない状態になっていたことは疑いようもない。幸いにもにおいは目に見えないので、むせ返るようなキムチ臭に喘ぎながらも、かろうじて無事に出社することができた。すぐに陸運部に持って行き、やっかいものを押し付け陸運部の売り上げに貢献した。やれやれ、これでやっと落ち着いた。
 しかしこれは、悲劇のほんの序章に過ぎなかったのだ。
 その日の午後頃からだろうか、その囁きがゆっくりと社内に広まっていったのは…。
「階段に、何か変なにおいが立ち込めている…。」
 ここで少し、弊社の構造を話しておこう。私の部署がある建物は四階建てで、一階に海運部・二階に陸運部・三階に私のいる部署・四階に経営管理部がある*2。しかし一階の海運部だけは社内でつながっていない。つまり外から見ると、海運部への入り口となる扉と、上の階へと続く階段への入り口との二つがあることになる。階段は四階まで続いており、各階にそれぞれの部署への入り口となる扉がある。つまり、階段の一階から四階までがひとつのつながった空間となっているわけだ。そこに。その空間に。何か変なにおいが立ち込めている。どうやら私が託した荷物は陸運部でも預かりかねたらしく、ヤマト運輸が取りに来るまでの間、陸運部の外(つまり階段のある空間へ)放置されるままになっていたのだ。においは一階から四階まで立ち込め、各部署の人間が扉を開け閉めするたびに室内へキムチ臭がほんのりと流れ込んでくるようになった。ヤマト運輸へと手渡された後もキムチ臭はしばらく消えず、噂に敏感な人たちは誰それが持って帰った荷物が原因だと囁き、噂に敏感でない人たちは何のにおいだろうといぶかしみながら業務を行った。

「ちょっとお客さんを迎えに行かないといけないんだけど、この業務車借りていい?」
「いいですけど、キムチくさいですよ。」

 車に染み付いたにおいの方は、あれから三日経った今もまだ消えることはなく人々を苦しめ続けている。

今日の教訓:においの強いものは包装に注意せよ

*1:後で分かったのだが、着払いの荷物の発送を受け持っても、手数料はわずかしかもらえないらしい。お金の受け取りをやるところが手数料を多くもらえるのだとか。

*2:この四階建てのビルと隣接して六階建ての本社ビルがあり、こちらのビルの各階とつながっている。ただし今回の話の中ではこの本社ビルは何の役割も成さないが。