足先に潜む悪魔

 突然変異なのかどうか分からないが、私の足のつめは巻き爪である。うちの一族にはそんな爪を持つ人物はいない。かなり巻いている。いやもう、巻き込んで巻き込んで食い込んでいる。どのくらい巻いているかと言うと…、皆さん、ホッチキスのたまを思い出してください。使用前のではありませんよ。使用後の姿、つまり、紙とかをぱちんととめた時の、しっかりと紙を抱え込んでいる状態のホッチキスのたま。私の足の親指の爪を正面から見ると、だいたいあんな感じ。もう、肉を突き破って左右の端がいつ開通されるのだろうかと思うくらい。一方上から見るとどんな感じか。まず、形は台形。根元の方が底辺で、先端の方が上底ね。先端に行くほど丸まっていくから細くなるのです。さらに面積。一般の人の足の爪は上から見ると、両脇に少しお肉。そして貝殻のような爪が指の上に乗っている。しかし巻き爪だとそうはいかない。肉:爪:肉の面積の比率が1:2:1くらい。このことを知っていれば、夏の海でサンダル履きの女の子の足元などにちらと目を向けるだけで、その子が巻き爪かどうかが分かるのである。そして少し斜めの角度から見てみると、爪がドームのように丸く高く盛り上がっている。このように、見るもおぞましい姿の爪が私の左右の足にしがみついているのである。
 抜くとよいという話も聞くが、抜いてもまた巻き込んだ爪が生えてくるとも聞く。深爪はいけないので伸ばすようにしなさいとも言われたが、丸まる姿は衰えを見せず、食い込んだ爪と肉との間に溜まった爪垢が異臭を放つだけである。なんせこの爪垢は耳かきを奥深くまで突っ込まないとほじくり出せないのだ。
 では、これがどれくらい痛いかだが、実は痛いときと痛くないときとがある。多分、ほんとちょっとしたことなのだろうが、食い込んだ爪が肉を傷つけて腫れてくると、痛い。ちょっとした振動でも足先に響く。安全靴を履いていてもなお、何かに爪先をぶつけると痛い。まして日常生活の中で踏まれたりしたならしばらくは立ち上がれないだろう。1ラウンドKO負けなんて簡単なもんだ。
 高校の頃陸上部で長距離をやっていたが、大会のときに巻き爪が食い込んでいるところから出血し、靴の爪先が赤くにじんだことがある。しかし現実は「巨人の星」のように爪から血を流していることに誰かが気づいてくれることなどなく、冴えない記録に冷ややかな視線を浴びせられただけだった。

 そして今日も足はくさいのだった。