世のおやじたちは足がくさい

 あれは多分、染み付いていて取れないんだろうねぇ。お風呂で石鹸つけて洗っていても、やはり残るようだ。ああ、恐るべき「足のにおい」。私も入社したての初々しい頃にはそんなこと思いもしなかったのだが、近年どうも足がにおう。お風呂上りなどは無事だが、仕事モードに入ってしまえば、夕方を待たずしてぼちぼちにおってくる。それも年々強烈になっていくようで、初めの頃は座敷などに座ると足のにおいが鼻元まで立ち昇ってきたものだったが、今では椅子に腰掛けていても立ち昇ってくることすらある。うちの次長も先日、夜はお客さんの接待だからとコンビニに新品の靴下を買いに走っていた。「お父さんの靴下と一緒に洗濯しないで」という年頃の女の子の台詞も止むを得ないのかもしれない。
 しかししかし。そもそも足がくさいのは世のお父さんたちのせいではない。ましてや私のせいでもない。原因は靴だ。世の中で働いている人の多くは革靴もしくは安全靴を履いている。事務職・営業職なら革靴で、現場なら安全靴だ。どちらも通気性が悪く、蒸れる。まして人の足の裏はもっとも汗をかく場所で、一日に牛乳瓶何本分だかの汗をかくというのを見た記憶がある。つまり足のにおいは、働く男につきまとう職業病みたいなものだ。清潔にしようとある程度以上の努力をしているお父さんならば、例え靴下がくさくても家族は文句を言ってはならないのだ。養ってもらっている身ならばなおさらだ。
 私もできるだけ足に風をあてようと、車の中では安全靴を脱いでいる。エアコンの風を足元に向け、靴下と足本体を乾かす。しかし先日、私のすぐ後に車を使った女子社員に「車の中がくさい」と言われてしまった。うるせー。週60-70時間も安全靴を履いた状態で6年間働いてみろ。お前だってくっさーい足になるんだ。そうしたら嫁の貰い手なんてなくなっちまうんだぞ。お前らが嫁にいけるように我々男が犠牲になって足のにおいを引き受けているんじゃないか。くさいなんて言うな。芳しい香りがすると言え。
 そう、心の中で叫んでおいた。